病原微生物の生菌の検出

つくば遺伝子研究所

2020.09.18

要約

はじめに

食品を加熱処理すると、食品中に存在する菌を死滅させ、室温での長期保存が可能となります。レトルト食品はそれを利用した食品のひとつです。

食品の品質管理の一環として、製品中に生菌が残っていないか調べる必要があります。現在その目的に広く用いられている手法は「培養法」です。しかし、この方法は時間がかかるのが難点です。

PCRを使うと、菌のDNAの迅速な検出が可能です。しかし、加熱処理食品の中では菌が死んでもそのDNAは断片化されて状態で存在するため、菌の生死に関わらずPCR産物が検出されてしまい、生菌が残留しているか否かを判断できません。

そこで、弊社ではDNAの代わりにRNAを検出することで迅速な検査を可能にする方法を考えました。

RNAは加熱と2価イオン(マグネシウム等)存在下で短時間に分解されます。従って、検体から菌RNAが検出されれば生菌が存在している可能性は高いと判断できます。

ここでは、13菌種の病原菌の検出に必要なシステムを「ドライ」で構築しました。これが、機能するかどうかを確かめるために、手始めとして、4菌種で検証しました。

病原微生物の検出

検出可能範囲

検出対象として想定した病原微生物には以下のようなものがあります。

プライマー作成に使用した菌株 作成したプライマーによって検出された菌
Arcobacter butzuli Arcobacter butzleri, A. cryaerophilus, A. skirrowii
Bacillus cereus, Bacillus anthracis Bacillus cereus
Staphylococcus aureus Staphylococcus aureus
Mycobacterium Mycobacterium bovis, M. avium, M. intracellulare, M. tuberculosis, M. ulcerans, M. avium ssp. paratuberculosis
Listeria monocytogenes Listeria monocytogenes
Yersinia pseudotuberculois Yersinia pestis, Yersinia enterocolitica, Yersinia pseudotuberculosis
Legionella pneumophila Legionella pneumophila
Cronobacter spp. Cronobacter sakazakii, C. muytjensii, C. dublinensis, C. turicensis, Cr. malonaticus
Escherichia coli/Shigella Shigella dysenteriae, S. flexneri, S. sonnei, S. boydii, Shigella sp., Escherichia coli
Salmonella Salmonella enterica subsp. Null, S. enterica subsp. enterica serovar Choleraesuis, S. enterica subsp. enterica serovar Typhi, S. enterica subsp. enterica serovar Infantis
Campylobacter Campylobacter jejuni, C. coli, C. fetus
Vibrio cholerae, V. parahaemolyticus Vibrio cholerae, V. parahaemolyticus, V. vulnificus, V. fluvialis, V. furnissii, V. mimicus, V. anguillarum
Clostridium perfringens, C. botulinum Clostridium botulinum, C. perfringens

ここに記載した13種類の病原菌の生菌の検出システムをin silicoで開発しました。

方法

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検出のためのPCR概略

4種類の菌を用いた検証

上で挙げた13種類のうち重要と思われる4種類について、実際の菌を用いて生菌由来RNAの検出を検証しました。また、加熱処理した食品中に残っている菌のDNAは検出しないことを確認しました。

サルモネラ属菌と大腸菌

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サルモネラ菌と大腸菌の解析です。

各菌のRNAでシグナル(PCR産物)が見られる一方、各菌のDNA、更には、食品中のウシ、ブタ、ニワトリのDNAの存在下では、シグナルは見られません。サルモネラ菌と大腸菌のRNAが存在したとき、つまり生菌がいたときのみにシグナルが認められることから、死菌は検出せず、生菌だけを検出できていることになります。

クロストリジウム属菌

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クロストリジウム属菌の検証例です。

この菌の仲間には、ボツリヌス菌がいます。ボツリヌス菌の産生する毒素は数百gで人類を死滅させることができるほど強力な神経毒で、胃腸症状のほかに、末梢神経と結合して嚥下不能、呼吸筋マヒなどを起こし致死率は30~70%とされています。

カンピロバクター属菌

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カンピロバクター属菌の検証例です。

カンピロバクターは、ウシやブタなどの家畜や鶏などの腸管に広く存在していますが、特に鶏の保菌率が高いといわれており、市販の鶏肉は高率で汚染されているという報告もあります。

腹痛、下痢、嘔吐、発熱を主な症状として、まれに血便を生じることもあります。最近注目されている合併症で、下痢後1~3週間後に手足の麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」を起こすこともあります。

纏め

弊社では生菌のみを検出するRNA検出法を考案し、4種類の病原菌について、実際に生菌の検出ができることを検証しました。

この方法を用いれば、迅速に(~3時間) 、病原生菌の有無を判定できます。